As a source of inspiration - Hand-spun linen

手紡ぎのリネン糸 – インスピレーションの源

Sep 3, 2021

糸 – インスピレーションの源

私は自己紹介をするときや名刺には自分のことをテキスタイルデザイナーもしくはテキスタイルアーティストと名乗る。クラフトデザイナーという言い方もあうような気もするが、何が一番ピッタリくるかわからないまま今に至っている。実際にはテキスタイル以外のこともするが、それでも私の根本にはテキスタイルがあると実感している。素材、特に糸や布が大好きで、特に糸を見るといろんなイメージと形が目に浮かび、それを一刻も早く形にしたくなり、ついついその糸を買ってしまう。。。という現象が起こる。冬ごもり前のフクロウがネズミを巣に溜め込むように、私は”念の為に”糸を溜め込む。いつかこの糸であれを作ろう、と決めているものもあるが、ただただ糸の美しさに惹かれて購入し、でも何にすべきかわからないまま置かれている糸もある。

販売するためのクラフト製品は、主に日々の暮らしの中で毎日利用するような身近な物を作ってきた。例えばタオルは好きなアイテムの一つだ。一日に何回も手を洗い、そして拭く。その度に気持ちよければその一瞬が豊になり、それが重なって一日が豊かになると思う。制作に関しては手工芸技術はなんでも試してみなければ気が済まずいろいろやるが、クラフト的な製品を作る場合には好んで伝統的な織り組織を使う。ほぼ教科書通りの組織が多くなるのは、それがやはり一番美しいと思うからだ。シンプルだからこそ毎日使っていても飽きのこない一点となると思う。

手紡ぎのリネン糸

2000年代に入ってから仕事に関わりもあり、アラビアのアンティックに興味を持ち出し、フリーマーケットに足げく通うようになると、手つむぎのリネン糸を度々見かける事に気がついた。通常価格は目を疑うほどに安い。元々自分でもウールの手紡ぎをしてきているので、手紡ぎされた糸はハッキリと見分けることができる。しかしあの手間を思えば考えられない価格で、本当に手つむぎなのか、、、と疑ってしまうほどだ。

糸を紡ぐことにかかる手間と時間がどれほどのものかを知っているものとしては放ってはおけず、勿体ないという思いから少しずつ買い集めるようになった。日本の織りの友人に土産として贈ると喜ばれるし、自分でもいづれ何かにしたいと思い少しずつ買い集めてきた。自分の仕事場に糸は少しづつ溜まっていったけれど、何にすべきかわからずたまり続けていた。

出会い

一つの出会いが大きな転換となった。

ある時、自分でリネンを育て、繊維を取り出し、紡いだ糸を売りたいという人と出会った。

彼女の祖母がフィンランドで長いこと受け継がれてきていたその技術と文化を家族に伝えたいという願いから始まったプロジェクトで、彼女は出来上がった糸でいくつかのカーテンを織り上げ、今でも使われているという。織りきれずに残っていた糸を手放すことに決めた、、、私がそれに出会ったというわけだ。この、『この人が紡いだ』ということがわかってるという事実はその糸の価値を私の中でいつも以上に上げ、私はもう絶対にその糸を手に入れなければならないという気持ちになった。

糸を購入する約束をするとその糸を紡いた本人・メルヤさんからそのプロジェクトの記録写真がメールで送られてきた。それを一目見ると一気に私のイメージが膨らみ始めた。

畑で長靴を履いてリネンを刈っているメルヤの家族、糸紡ぎを実演するおばあちゃんの姿。それを見るとこれまでためて来ていたリネン糸を布という形にして触ってみたいという衝動が生まれた。こういう気持ちが生まれたのは初めてだった。

制作

メルヤさん一家の糸は少し手を加える必要があったためにすぐには織ることができなかったので、私は手持ちにあった手つむぎのリネン糸で仕事に取り組み初めた。とにかく手つむぎのリネン糸をまず布にしてみたいというのが今回の目的だった。

糸自体の個性が強いので組織は凝らない方がいい。しかし平織りではない。横糸がある程度スペースを持てて息ができるように2−3本の飛びがある組織を使いたい。いくつか試した後杉綾織りに決定。出来上がった布の強度だけにとらわれず、その糸の味を殺さないようにすることに注意した。そのために密度はやや緩め。サンプルをすると幸い縦糸にもできるくらい強いことがわかり、縦横で使うことにした。

布の一部は手ぬぐいとして、一部はテーブルセンターとして使うこととした。手ぬぐいはプライベートなものだから、自分の手ぬぐいが利用者にわかるように布の端にわずかに色を入れた。サイズは小さめ。理由は洗濯の際に都合が良いだろうと思ったからだ。布からは当分の間洗濯の時に繊維が落ちるので、他のものと一緒に洗うことはできない。しばらくは手洗いが望ましい。その時にあまり大きいと扱いにくいと思ったのだ。

今この手ぬぐいは私のお気に入りの一点。手を拭くたびにそのカサカサとした手触りに癒されている。

メルヤさんの糸は一手間かけて、織る準備ができた。今サンプル中だ。彼女の家族の姿が目に浮かぶような一点を作りたい。

 

Langan ja pyyheliinan kuvat:Midori Tsunoi/糸のかせおよびリネンタオルの写真:角井みどり

Pöytäliinan kuva: Minttu Wikberg / テーブルランナーの写真:ミントゥ・ウィークバリ